憧れの永遠旅行者 【ノマドとは本来、しがらみと不自由さの中で生きる民】

旅を何度も繰り返す者の多くが思い描く理想がある。
それは、残りの人生でもう働かずに「永遠旅行者」として、ずっと旅を続けることだ。
ここで言う永遠旅行者とは、税金対策で居所を毎年変える一部の富裕層とは無関係で、単純に働かなくても旅行者のままでいられる人を指す。

誰もが最初に考えつく目標達成の手段は、莫大な金を蓄え、その利息なり配当で旅の費用を賄う方法だ。
仮に、旅の年間費用を150万円、利子率を2%とすれば、2%を掛けて150万円になるのにいくら必要かは、
150万 ÷ 2% = 7,500万 (円) (税金は無視)。

こんな大金が貯まるのを待っていては永遠に永遠旅行者になれない。そもそも、これでは死亡時に元本がそっくり残り、遺産相続させたい親族がいるような場合を除き、ムダだ。

そこで、資産を運用しつつ、死ぬまでの期間にわたり一定額を取り崩すことを試みる。
まず、永遠旅行を始める時点でその先1年の費用を資産から控除する(計算の簡略化のため年初にまとめて取り崩すと仮定)。そして、残りの資産を運用し、1年経過後に運用益が加わった資産から2年目の費用を差し引いた残りをまた運用。以降も同様。

例えば、利子率を2%、(余命)期間を50年、1年間の旅の費用を150万円とすると、スプレッドシートを用いて任意のセルに
「=-PV(0.02,50,1500000,,1)」と打てば、必要な資産額が得られる(最後に指定している「1」は期首での取り崩しの意味)。
結果は「¥48,078,117」と表示され、7,500万円よりだいぶ下がったのが確認できる。
ちなみにタンス預金で利子率がゼロのときの「=-PV(0,50,1500000,,1)」は150万円の50年分で、たまたまだが7,500万円になる。

いろいろな条件で試すには、下図の通りB4のセルに「=-PV(B1,B2,B3,,1)」と入力したうえで、B1からB3の各値を自由に変えればよい(下図はエクセルではなくオープンオフィスのため、カンマのところがセミコロン)。

PMT01

インフレは利子率で考慮し、税金も同様に扱えば(あるいは年間費用に加算)、ざっくりとした目安は簡便に計算できる。

以上で大抵は事足りるはずだが、逆方向の試算についても触れておく。つまり、現在4,800万円を保有し、それを2%で運用しながら50年にわたって毎年一定額を取り崩すと、旅の年間予算の上限はいくらかという発想だ。
この場合は「=-PMT(0.02,50,48000000,,1)」と入力し、結果は1,497,563円。

もう少し手が届きやすい額にすべく、下図の通り利子率を4%、期間を30年、資産を1,200万円に変えると、年間67万円弱、1日当りで1,800円ほどになる。移動を抑えれば、国によってはギリギリいけそうなので、まずは1,200万円を目指したい(実際は渡航費や日本の拠点の維持費もかかる)。

PMT02


利子率4%で運用しながら10年間で1,200万円に達する積立額は「=-PMT(0.04,10,,12000000)」で求められる(通常、積み立てといえば毎月行うものだが、毎年期末にまとめて引き落とすと仮定)。
この場合も下図の通り入力すれば、利子率や期間、目標の資産を変えてシミュレーションが可能だ。

PMT03

逆も見ておこう。利子率と期間は同じで、毎年100万円積み立てていくと最終的にいくらになるかは、「=-FV(0.04,10,1000000)」と入力し、結果は12,006,107円。


各関数の代わりに計算式でも求められる。単純化のため利子率を10%、期間を5年とすると次の通り。

イ.「=-PV(0.1,5,1000000,,1)」は
「=1000000*(1-1/1.1^5)/(1-1/1.1)」

ロ.「=-PMT(0.1,5,5000000,,1)」は
「=5000000*(1-1/1.1)/(1-1/1.1^5)」

ハ.「=-PMT(0.1,5,,5000000)」は
「=5000000*(1-1.1)/(1-1.1^5)」

ニ.「=-FV(0.1,5,1000000)」は
「=1000000*(1-1.1^5)/(1-1.1)」

なぜこうなるかは、下図で確認できる。

PMT04 PMT05

ほとんどの試算結果はゴールまでに長い年月を要すことを示すし、衰退途上国ニッポンの状況を鑑みると、さすがに1日¥1,800の予算は心細い。その一方、リモートワークの普及で、旅と仕事の両立も夢物語ではなくなってきた。ならば大金が貯まるのを待つよりも、いわゆる「ノマドワーカー」を志すほうが手っ取り早い。

ただ、このノマドワーカーという言葉はちょっと引っかかる。ノマド(遊牧民)から、場所を選ばない自由な職業を連想するのはわかるが、彼らは常に少人数の集団で暮らす点で、本来は自由の対極に立つ。例えばひとりが勝手に野生動物を襲うとメンバー全員を危険に晒すので、単独行動は厳に慎まれるというように、同じ顔触れに囲まれた生活は濃密な人間関係に支配される。

空間や時間に縛られても、匿名性の高い都市で過ごすサラリーマンのほうが、むしろ自由…。
などと、既に人口に膾炙した表現に難癖をつけてしまう原因は、私ができなかった働き方をしているノマドワーカーへの嫉妬心だ。どのみち、そんなスキルはなかったのだけれど。