さらなる楽園を求めて移動するか留まるべきか 【最適停止問題で導く解】
最適停止問題という数学の理論がある。
結婚問題とか秘書問題としても知られ、簡単に述べると次のようなものだ。
Q.何人かの結婚相手の候補なり、秘書の求人の応募者がいて、ランダムに1人ずつ面談を行うとする。各人の面談終了ごとに採否を即断しなければならず、後からやっぱりさっきの人が良いと戻ることは不可。どうしたら最も良い人を選べる(確率が高い)か?
A.まず、応募者のうち始めの37%(のちょっと手前)を無条件に不合格にし、そこまでで1番の人がどの程度良いかは覚えておく。あとはそれよりも良い人が37%以降で見つかったとき、直ちにその人に決める。たとえ見つからず必然的に最後の人になろうが確率的にはこれが最も有利。
何故そうなるのかの証明は、一応うっすらとわかった気になっているが、そんなレベルだから一切触れない。
ここで引っかかるのは「後戻り不可」の制約で、結婚相手はまだしも求人の採用でこんな決め方は非現実的に感じる。
そこで、適切な題材を旅に求めてみた。
すぐにひらめいた事例は飛び込みでの宿探しだ。ただ、後戻り不可は(即決が求められる超混雑時を除き)やはり不自然だし、この問題は条件として十分な数の候補が必要らしく、1つの町で探し回る宿の数では足りないだろう。
次に思い浮かんだ場面が、いきなり飛躍するが地上の楽園がどこかにあると信じて、それを探す旅に出るモデル。タイトルに使っておいて何だが、これだと予め赴く都市の数を決めておくのが不自然だし、相対的に1番なのと楽園は本質的に異なる。
修正してこんなふうに変えてみた。
比較的長期の旅で多くの都市を回りつつも、最も魅力的な土地1箇所でできる限りゆっくりしたい。一筆書きかオープンジョーでルートを組み、来た道を戻るのは時間の無駄なので禁止。
そのためには、訪問予定都市の4割くらいを速めのペースで消化し、以降は今までで1番だと感じたところで本格的に旅装を解けばよいことになる(あくまで確率的に有利なだけ)。
しかし、そもそも1番良い町に長く滞在できるのと、旅全体の満足度を最大化するのとは全く違う。
さらに、見る順番を考慮していないのもおかしい。この点は結婚相手や秘書でも同様で、普通は直近に見た人の印象を引きずって次の人を見てしまいがち。旅の場合、Aに着く前にいた町がBかCかでAの評価が変わるし、似た場所を訪ねた経験の有無や、あるのなら昔か最近かの差も影響しそうだ。
「あの町は良かった?」と訊かれたときは、最初にその町を含む線でとらえた後、改めて点に還元しているように思う。
少し違うかもしれないが、規模の大きな遺跡群を見学の際、地味なものから始めて、徐々に大きくて派手な準主役級に移行し、最後に本丸を持ってくる順序で回ると、気分が段々高まることもあれば、逆に途中で飽きてしまうこともある(写真を見返すと前半のどうでもいい石ころを何十枚も撮っておきながら、メインの遺跡は数枚だったりする)。
以上より、最適停止問題の旅への適用はうまくいかなかった。
もともと、先にも触れた通りこの問題においては十分な数の候補が必要。よくよく考えてみると、それほど多くの都市を回る旅など、これまでどれだけ出来ただろうか。
適切な題材なんかを探している場合ではない。まずはそこを何とかするのが先決だ。