元祖ライドシェアの適正な費用負担 【定員割れ乗合タクシーの理不尽】

配車アプリが世界に広がるずっと前から、旅行者はよくタクシーの相乗りをしてきた。その方が経済的だし、1人よりも安全だ。
このとき私は、人員構成によって費用負担を変えるかどうかで、しばしば悩む。

仮にタクシー乗り場に外国人観光客がいたとしよう。声を掛けると同じ目的地なので、一緒に行こうと勧誘。さらに1人が新たに加わり、自分を含めた3人の相乗りが決まった。めでたく費用は3等分できる。

問題は相手がカップルなどの2人組の場合だ。
彼らが私を必要とするよりも、私が彼らを必要とするため、3等分では申し訳なく思えてしまう。
私はいくら出すべきだろうか。

まず、全員が他人同士のパターンの3等分の割り勘を違う角度で見てみる。
タクシー料金が乗客の人数にかかわらず1台1,200ペソの定額のとき、全員がバラバラにタクシーを拾えば全体の費用は3台分で3,600。シェアすれば1台で済んで1,200。
シェアの恩恵は、3,600-1,200=2,400で、1人当りは800。これをシェア前の1,200から引くと、各自の負担は400で、1,200÷3=400と等しい。

カップルと組む案件を同じ手順で考える。
シェアしないと、私は1人で1台、カップルは2人で1台使い、全体の費用は2台分で2,400。
シェアの恩恵は、2,400-1,200=1,200で、1人当りは400。私はシェア前の1,200から400を引いて800を払い、彼らはシェア前の1,200を2等分した600から400を引いた200ずつを払う(800+200+200=1,200)。
私にすれば、800でも1,200よりはだいぶ安いので危うく承諾しそうだが、カップルとの差が大き過ぎる。
計算過程をじっくり眺めると、シェアの恩恵の2,400は全員が他人同士のパターンの3,600に比べて小さい。理由はカップルが既に組んでいて、先に一部の恩恵を受けていること。それで減った恩恵を私に1/3しか渡さないのはおかしい。
そこで、カップルを2人1組のグループ、私を1人だけのグループと見なし、2グループでシェアの恩恵を分けてはどうか。つまり、私は1,200の半分の600の分配をもらい、1,200-600=600の負担、彼らは2人で600の分配を得て、(1,200-600)÷2=300ずつの負担に各々変える。これらの値は、車1台分の費用をグループ単位で割り勘し、さらにグループ内で割り勘したのと一緒(600+300+300=1,200)。

ちょうど良さそうだ。
ただ、ミニバンを5人組のグループとシェアする場合も、同様の計算によると、私の負担は全体の半分だ。重量も占有スペースもかなり違うのに。
元々、1人でチャーターを覚悟していたのなら、半額でもよしとすべきか…。

ここでフレームを変えて、乗合タクシーの利用を考える。
ややこしいのだが、この交通機関は結果的に相乗りになった(一般の)タクシーとは別で、最初からシェアを前提にした乗用車(もしくはミニバン)を指す。満席になり次第出発し、バスのように定路線型で終点までの運賃は一律というシステムのことが多い。

定員が4人の乗合タクシーの席に座ったとしよう。先客に現地在住の2人組がいて、挨拶を交わすと兄弟だと自己紹介された。私と合わせ3人なので、あと1人だ。
ところが、1時間経っても次の客は現れず、皆痺れを切らし始めた。このとき運転手が私の耳元で囁く。「運賃は1人300ディナールなんだけど、空席分と合わせて、あなたが600払えば、今すぐ出るよ」と。兄弟もこちらに熱い視線を送る。

「外国人には、はした金でしょ」と言わんばかりの理不尽な提案だ。帰りの飛行機の時間が迫っているのでもない限り、普通の旅行者は脊髄反射で拒む。
しかし、カップルとの相乗りでは、全体の半分の600の負担もやむなしとしたのだ。兄弟との乗合タクシーも半分の600でいいはず。なのに、強い抵抗を感じるのは、そもそも600は多過ぎるためだ。

もう少し、乗合タクシーの例で検討する。
空席の費用は兄弟も負担すべきだ。かと言って、3等分で1人100ずつ追加は気が咎める。ならば、300をグループで割り勘はどうか。即ち、私は自席300と空席の半分150の450で、彼らは自席300と空席の1/4の75で375ずつだ。

元の問題に戻ると、カップルとの相乗りも450+375+375=1,200が妥当。
5人組グループとのミニバンシェアも空席をグループ単位で割り勘なら、ひどい片寄りはなくなる。

ところで、私1人と2人組のカップルに、他人がもう1人が加わったらどうすべきか。4人乗りだと、もはや空席がないため、上記のような計算は無理。
その場合は単純に4等分でよい。
旅行者もタクシーもひっきりなしに現れる極端な状況を想像すれば、2人組や3人組が席を埋めた貢献は無視できる。これを拡大解釈し、満席になった時点で、全員が互いを他人と扱う。

以上は、私が思う適正な費用負担だ。現実は、フェアネスの基準に地域差や個人差があり、それがモヤモヤ感を生む。
有力な解決策は配車アプリの活用だ。ライドシェアには運転手との(形式上の)シェアだけに限らず、別の客がいて、しかも途中の区間のみ同乗という複雑なパターンもあるらしい。最短経路を外れて、シェア相手を拾う事例などは精算が難しそう。

運賃はおそらく、簡便な静的アルゴリズムではなく、(条件を明らかにされたうえで)運転手と客の動的マッチングで求めると想像する。とすれば、ここまで所与と考えてきた運転手の収入の変動が大きくなり、乗客間の費用負担の概念は薄まる。

ちなみに、航空会社や一部のホテル、ライドシェアが、需要に応じて弾力的に価格を付ける「ダイナミックプライシング」を採用して久しいが、乗合タクシーにも類似の仕組みはある。
例えば、乗合タクシーの最後の客は、自らの登場でやっと満員になるゆえ、状況次第で値下げ交渉が可能だ。但し、調子に乗って強気でいると、突然現れた新たな客に席を取られて置いてけぼりを食らう。そんなとき、配車アプリならスマートに競えるはず。

タクシーでも、飛行機のように隣の人がどんな条件でいくら払ったかなんて知りようがなければ、心穏やかに旅ができる。